不育症
2021年4月10日 土曜日
コロナ禍の妊活について、2回シリーズで患者様からの質問をQ&Aでお送り致します。
【Q1】コロナ感染拡大が収まらないうちに妊活をしても大丈夫ですか?
新型コロナウイルス感染症は妊娠や出産、胎児にはあまり影響がないとされています。
一時期は延期をした方がいいとされていた不妊治療に関しても、再開してもよいという判断が出ています。
ただし、感染を予防するために妊婦健診に支障が出たり、里帰り出産や立ち会い出産、出産後の親族の面会などには制限が掛かる可能性も(対応は病院や産院で異なります)。
そうしたリスクを理解した上で、妊活を行うのは問題ないでしょう。
妊娠はタイミングが重要。子どもが欲しいと思ったら、タイミングは逃さないのがお勧めです。
【Q2】コロナ禍の状況下で妊活をする際に気を付けた方がいいことはありますか?
基本的には通常の妊活と気を付けることは一緒です。大切なのは体の調子を整えること。生活習慣や食習慣を見直しましょう。
コロナの影響で外出がままならない現在、生活のリズムが狂いがちという人もいるかもしれませんが、家に長くいる期間を利用してしっかり整えて。
早寝早起きを心掛け、睡眠時間はたっぷりと。ウオーキングやヨガ、ストレッチなどの軽い運動をしたり、ゆっくりと入浴タイムを楽しむのは、質の高い睡眠を得るためにもお勧めです。
ストレスの軽減にも役立つでしょう。また、バランスの良い食事も心掛けて。
もちろん、こんな時期ですから感染対策は万全に。密閉・密集・密接となる環境はできるだけ避け、外出の際はマスクを着用。手指はこまめに手洗い・消毒をしましょう。
【Q3】妊活中にコロナ感染が疑われる症状が出た場合、どうすればいいですか?
これは一般の人と変わりません。せきや発熱など新型コロナウイルス感染症が疑われる症状がある場合は、かかりつけ医に電話で相談してください。
もし感染していて治療が行われる場合は、最初に妊娠の可能性があるかどうかを聞かれるはずです。もし聞かれなかった場合は、妊活中であることを伝えましょう。
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2021年3月12日 金曜日
前回の投稿の続きで人工授精や体外受精でも性交回数が多いほうが妊娠率が高くなるというエビデンスを紹介したいと思います。
『性交そのものが着床環境を免疫的に整えるように促す』
文献:Fertil Steril 2014;104:1513
https://academic.oup.com/emph/article/2015/1/304/1798160?login=true
インディアナ大学のキンゼイ研究所で、精液だけでなく、性行為そのものも免疫システムに影響を及ぼしているのではないかと考え、そのことを確かめた研究があります。
30名の女性に、月経サイクル中の月経期、卵胞期、排卵期、黄体期の4回、唾液を提供してもらい、唾液中の生殖ホルモン(エストロゲン、プロゲステロン)や2種類のヘルパーT細胞(Th1、Th2)が放出するサイトカイン(IFN-γ、IL-4)を測定し、それぞれの値の月経サイクル内の変動と性交との関係を解析したものです。
その結果、性交のあった女性では、黄体期に妊娠に有利に働くサイトカインが優勢でしたが、性交のなかった女性ではみられませんでした。
結果はコンドームの使用の有無に影響を受けなかったことから、性交そのものが、月経周期中の免疫反応が妊娠に有利に働くのかもしれません。
『精液は妊娠合併症のリスクや胎児の健康にも影響するかもしれない』
文献:J Reprod Immunol. 2009; 82: 66
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19679359/
カップルの性的な関係のあった期間と妊娠後の子癇前症やSGA(子宮内発育遅延)との関係をニュージーランドとオーストラリアで調べた研究があります。
2,507名の初産の妊婦を対象にパートナーとの性的な関係の期間と子癇前症やSGAの発症との関係を調べたところ、期間が短いカップルほど子癇前症やSGAの発症リスクが高いことがわかりました。
これは、女性の生殖器官がパートナーの精液に触れる頻度が高くなるほど、女性の生殖器官が妊娠合併症のリスク低減や子宮内の胎児の成育に有利な状態になることによるのではないかとしています。
性交は「妊娠しやすさ」だけでなく、「妊娠合併症のリスク低減」や「胎児の成長」にも有利に働くかもしれません。
私的な意見ですが、自然妊娠では性交回数が多くなるほど妊娠の確率が高くなるのは理屈抜きで理解できますが、人工授精や体外受精、顕微授精では、もはや、性交は不要と考えがちかもしれません。
ところが、私たちには、「膣内射精で精液が女性の生殖器官に触れること」や「性交そのもの」が女性の身体が妊娠や出産に有利に働くメカニズムが備わっている可能性が大きいことがわかりました。
であれば、たとえ、タイミング指導でも排卵期以外にも性交すること、そして、たとえ、生殖補助医療を受けていても性交することは「いいこと」になるわけです。
ただし、くれぐれも誤解しないでいただきたいのは、不妊治療を受けている場合、「性交」は妊娠、出産に有利に働くようですが「性交」は必要条件ではありません。
つまり、ここでも、性交は「義務」ではないけれども、多少なりとも、妊娠、出産のサポートになるかもしれないということです。
それにしても、新しい命の誕生に際しての人間の身体のつくりの精巧さ、奥深さ、そして、神秘さに、驚かされるとともに、あらためて感動し、畏敬の念を抱かざるを得ません。
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2021年3月11日 木曜日
アメリカ生殖医学会は学会見解として、妊娠する力に最も影響を及ぼすのは「女性の年齢」で、その次が「性交回数」であるとして、毎日性交することで周期あたりの妊娠率が最も高くなるという研究結果を紹介しています。
ただし、性交が妊娠率上昇に寄与するのは、タイミングが合いやすくなること以外にもあることが意外に知られていないように思います。
今回は2回に分けて人工授精や体外受精でも性交回数が多いほうが妊娠率が高くなるというエビデンスを紹介したいと思います。
性交回数が多いほど妊娠しやすくなります。つまり、「性交には妊娠への障害を取り除く効果がある」というわけです。
お伝えしたいのは、性交が妊娠率に影響するのは、自然妊娠だけで
なく、たとえ、人工授精や体外受精、顕微授精を受けていても、同じことが言えるかもしれないということです。
そして、性交は、妊娠率だけでなく、妊娠、出産の合併症リスクの低下や胎児の健康にまで影響するかもしれないのです。
『精液は着床環境を免疫的に整えるスイッチをオンにする』
文献:
1)Hum Reprod. 2000; 15: 2653⇒ https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11098040/
2)Hum Reprod Update. 2015; 21: 275⇒ https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25281684/
オーストラリアとスペインで体外受精の移植日前後の性交と妊娠率を調べた研究があります(1)。
移植直後の性交は子宮の収縮を招き、着床の障害になったり、感染の原因になったりする可能性があることから、移植後の性交は控えたほうがよいという考え方があります。
ところが、その一方で、射精された精液が子宮や卵管などの女性の
生殖器官に触れることで、女性側の着床環境が免疫的に整うことが
動物実験でわかっています。
そもそも、女性にとって受精卵は「異物」であり、本来は免疫機能が働き、排除されるのですが、妊娠時には、不思議なことに「異物」を排除しないで、受け入れるように免疫が働きます。
そして、そのスイッチをオンにする役割が精液にあることが動物で確かめられているのです。
そこで、アデレード大学の研究グループは、人間にも同じようなメカニズムが働くのかもしれないと考え、478周期の体外受精の1343個の胚移植で、移植時期の性交の有無による治療成績を比較しました。
その結果、治療周期あたりの妊娠率には差はありませんでしたが、妊娠に至った胚の割合は移植時期に性交があったほうが高いことがわかりました。
もう1つ、性交や精液の注入と妊娠率の関係を調べたメタ解析(過去の複数の研究のデータを収集、統合し、統計的方法による解析)があります(2)。
トータルで7つの無作為比較対象試験(被験者総数2,204名)では、性交があった、もしくは、精液を注入したカップルのほうが妊娠の確率が23%高かったことがわかりました。
人間においても、精液は女性の生殖器官で着床に有利な免疫的働きを促すスイッチをオンにするのかもしれません。
次回は『性交そのものが着床環境を免疫的に整えるように促す』『精液は妊娠合併症のリスクや胎児の健康にも影響するかもしれない』について解説致します。
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2021年2月17日 水曜日
患者様をカウンセリングしていると良く聞かれる質問で実際のところ、いつまで妊娠出産ができますか?と言うようなご質問を頂きます。
今回はデータから見る『女性の年齢と不妊症の関係』について書きたいと思います。
『35歳で不妊症が増加、40歳でさらに加速』
女性の加齢と妊娠率の関係は、17〜20世紀における女性の年齢と出産数について調べたデータを見てみるとよくわかります。というのも、当時は避妊法が確立されていなかったため、バースコントロールされていない状態の出産状況がわかるからです。
女性の年齢とともに出産数は下がり、35歳で減少率が加速、40歳を過ぎるとさらに急速に減少していったことがわかります。
これは、現代における年代別・不妊症患者の割合の推移と一致しています。
実際に、現在不妊に悩んでいる人の割合は25〜29歳で8.9%、30〜34歳で14.6%、35〜39歳で21.9%、40〜44歳で28.9%。
「女性の年齢による妊孕力の変化」を調査した当時より私たちの平均寿命は延びていますが、女性の加齢における妊娠率の低下は、寿命が延びても影響をほとんど受けないようです。
また、夫が無精子症の場合に健康な男性から提供された精子を用いて妊娠をはかる非配偶者間人工授精(AID)の治療成績を見てみると、女性の年齢の増加にともなって妊娠率が低下しています。成績が急激に落ちるのは、やはり35歳以降。このことからも、女性は35歳を過ぎると妊娠しにくくなることがわかります。
『不妊の原因は、卵子の質の低下だけではない!?』
女性が年齢を重ねるごとに妊娠しにくくなる理由は、卵子の質が低下することにあります。けれども加齢による不妊の原因は、それだけではありません。
年齢が高くなると、卵管炎や子宮筋腫、子宮内膜症など不妊の原因となる病気になる確率もアップ。
とくに、卵管やその周囲が炎症をおこす卵管炎にかかると、卵管が狭くなったりふさがったり、癒着が生じたりし、排卵した卵を卵管にきちんと取りくむことできなくなります。子宮内膜症も卵管周囲の癒着がおこり、卵子が卵管に入ることができなくなる危険性が。
さらに骨盤内の環境自体も悪くなり、受精卵の成長や着床に悪影響をおよぼすと指摘されています。また子宮筋腫も、受精卵の着床や成長を阻害するリスクを高めます。
『不妊治療における妊娠率も、年齢を重ねるごとに低下』
このように女性は加齢とともに自然妊娠しにくくなり、35歳以降はその傾向がより強くなります。それでは、生殖補助医療による妊娠率や生産率はどうでしょう。
図を見ると、35歳前後から妊娠率が低下し、流産率が増加していることがわかります。
体外受精や顕微授精などの生殖補助医療においても、自然妊娠と同様に、加齢による影響を受けるのです。
さらに無事着床して妊娠が成立しても、年齢とともに赤ちゃんが死亡する割合が高くなることもわかっています。
周産期死亡率とは、妊娠22週以降の胎児や生後1ヵ月以内の新生児の死亡率のことです。
グラフを見ると、最も死亡率が低いのが25〜29歳で、そこからは年々増加。
とくに40歳以降になると、25〜29歳の倍以上の割合になっています。
女性の加齢は妊娠率を下げるだけでなく、健やかな出産や胎児の成長に悪影響を及ぼしかねないのです。
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