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子宮内細菌叢・子宮内フローラ検査について

2018年4月10日 火曜日

最近、全国のクリニックで増えている 子宮内細菌叢・子宮内フローラ検査につ
 
いて論文が増えてきたのでご説明します。
 
 
 【子宮内細菌叢・子宮内フローラって?】 
 
 
健康な女性の生殖器には、ラクトバチルス属と呼ばれる菌が多く生息していま
す。いわゆる善玉菌といわれるものです。

 

この菌群が様々な理由で減少すると、

カンジダ腟炎や細菌性腟炎等を発症させると考えられています。

次世代シーケンサー(NGS)という最先端の遺伝子解析技術を利用することによ

り、子宮内のフローラ(細菌叢)のバランスを網羅的に解析することが可能です。

 
人間の体重の1-3%は細菌と言われています。人間はたくさんの細菌と共存して健康を保っています。

 

 
 
最近は、腸内フローラ、皮膚フローラについてTV番組でよく取り上げられています。
 
腸内フローラが乱れると、便秘や下痢だけでなく生活習慣病や老化などにも関係すると言われています。肌フローラが乱れると、肌荒れや吹き出物などを引き起こすと言われています。今回は、子宮内膜にいる細菌が、生殖に大きな影響を与えているかも知れないという論文です。 
 
 
以下、論文紹介

 
m J Obstet Gynecol. 2016 Dec;215(6):684-703. doi: 10.1016/j.ajog.2016.09.075. Epub 2016 Oct 4.
 
Evidence that the endometrial microbiota has an effect on implantation success or failure.
 
Moreno I, Codoñer FM, Vilella F, Valbuena D, Martinez-Blanch JF, Jimenez-Almazán J, Alonso R, Alamá P, Remohí J, Pellicer A, Ramon D, Simon C1.

 

 

 

 

「子宮内膜の細菌環境が不妊治療に及ぼす影響について」

 

 

 

女性の生殖器における細菌の役割で、よく知られているのが膣の自浄作用です。

 

健康な膣内にはラクトバチリスという常在菌がおり、女性ホルモンの働きで作られるグリコーゲンを発酵させて乳酸を作り、これにより膣内を酸性に保ちます。
 
このことが、大腸菌などの病原菌の繁殖を防ぎ、膣内を清潔に保っています。膣の細菌環境の乱れは、流早産などの産科合併症と関係があるとされています。

(現在、子宮内膜の細菌についてはあまりよくわかっていません。)

 
この論文では、従来の細菌培養とは異なり、次世代シークエンサーという遺伝子を調べる機械で、子宮内膜から採取した組織にいる細菌のDNAを調べ、子宮内膜にどのような細菌環境があるかを調べました。
 

論文で調べているのは以下の3点です。
 
 
 
①子宮内膜と膣の細菌環境の違い

②子宮内膜の細菌環境が性ホルモンの制御を受けているか

③子宮内膜の細菌環境が及ぼす生殖医療 体外受精への影響

 
論文の研究方法と結果です。
 

①13人の妊娠歴のある女性から黄体ホルモン投与後2日目着床期前と7日目着床期後の細菌を調べた結果、膣と子宮内膜の細菌環境はラクトバチリス優位であることは共通ですが、その割合や他の細菌の種類などは差異があり、異なる細菌環境でした。
 

LD群 : ラクトバチリス優位な子宮内膜(ラクトバチリスが90パーセント以上、lactobacillus dominant microbitoa)
 
非LD群 : ラクトバチリスが優位ではない子宮内膜(90パーセント未満である)に分類しました。

 

 

②22人の妊娠歴のある女性から44のサンプルをとり調べました。黄体ホルモン投与後2日目着床期前と7日目着床期後の細菌を調べました。

 
結果、両者に有意差はなく、子宮内膜の細菌環境は性ホルモンによる制御は受けていないという結果でした。
  

③体外受精中のERA検査子宮内膜受容能検査で受容能ありとされた女性35人から41サンプルを調べました。

 
非LD群では体外受精における着床率、妊娠率、妊娠継続率、生児獲得率が有意に低くなりました。

 

 

LD群 vs 非LD群

 

着床率 60.7vs23.1%


妊娠率 70.6vs33.3% 


妊娠継続率 58.8%vs13.3%


生児獲得率 58.8%vs6.7%

 

 

論文では、子宮内膜にも膣と同様の自浄作用あるのではと、子宮内膜の酸性度を測定しましたが、LD群と非LD群では差がなく、非LDの細菌が起こす炎症が病因ではないかと筆者らは推測しています。

 

 

最後に、今回の研究は、子宮内膜の細菌環境が不妊原因の一つであることを示唆しています。

 

アルコール摂取と体外受精の治療成績 への影響

2018年3月15日 木曜日

体外受精の治療成績には比較的少ないアルコール摂取量でも影響を 及ぼすとの報告がなされています。


体外受精に臨む2, 545組のカップルを対象にアルコール摂取量と4, 729周期の治療成績との関係を調べたアメリカの研究です。
 
週に4ドリンク以上のアルコールを摂取する女性
 
それ未満の女性に比べて、出産率が16%低く
 
女性も、男性も週に4ドリンクのアルコールを摂取するカップル
 
どちらもそれ未満しか飲まないカップルに比べて
 
出産に至る確率は21%、受精率が48%低かった。

ここで、注意しなければならないのはアメリカの基準飲酒量です。

 
アメリカでは1ドリンクとか、2ドリンクとしています。
 
これは日本の1単位、2単位とは違って
 
日本の1単位がアルコール20グラムであるのに対して
 
アメリカの1ドリンクはアルコール14グラムとされています。
 
この論文で体外受精の治療成績に影響が認められた4ドリンクとい うのはアルコール54グラムで、日本では2.7単位ということに なります。
 
体外受精の治療成績の場合は、比較的、 少量でも影響を及ぼすという印象を受けます。

これは体外受精を受けるようなカップルでは、年齢をはじめ、 アルコールの影響が大きくなるような背景があるのかもしれません 。

 
これまでの研究報告からアルコールの摂取量が多くなるほど妊娠し づらくなることは明らかです。
 
ただし、 一般に適量とされている量では相反する結果が報告されており妊娠 を希望される女性のための許容される(妊娠に影響しない範囲の) 飲酒量を設定することは困難です。

一方、体外受精の治療成績には少量でも影響を及ぼすようです。

そんな中でも、 アメリカ生殖医学会やイギリス政府機関では妊娠を望む女性のため の飲酒量の目安やガイドラインを設けています。

まず、アメリカ生殖医学会では1日2ドリンク以下としています。 アメリカの場合、 1ドリンクは14グラムとされていますので1日28グラム以下と なり、厚労省の一般向けの目安量を上回ります。

 
やはり、 アルコールの処理能力の人種間の差が大きいのかもしれません。 これはあまり参考にはなりません。

一方、イギリスは厳格です。

 
イギリスの政府機関であるNICE((National Institute for Clinical Excellence)のガイドラインでは「週に1~2回、1~ 2ユニットを超えないこと」となっています。

イギリスの基準飲酒量はユニットで1ユニットは8グラムです。で すから、お酒は週に1回、多くても2回程度にしましょう。

 
そして、その場合、アルコール8グラムを目安にし、 16グラムを超えないようにしましょう」ということになります。

アルコール8~16グラムを、 それぞれのお酒の種類で換算してみます。

 

・ビール(アルコール度数5度)   200~400ml
・ワイン(アルコール度数14度)  約72~144ml
・日本酒(アルコール度数15度)  約72~144ml

 

海外の目安をそのまま取り入れるのはナンセンスですが、 より厳格なイギリスのガイドラインを参考にするのが無難だと思い ます。

 

 

「週に1日か、2日、少量を」

 
ということになります。
 
あくまで、厳格な目安です。
 
ただ、不妊治療を受けていて、 気になるけれども飲みたいという方にとっては安心して楽しめるラ インではあると思います。

 

妊娠を希望するカップルにとってのアルコール摂取

2018年2月1日 木曜日

妊娠を望むカップル、不妊治療を受けているカップルにとって、アルコール摂取については、少々、気になるところです。

 
「飲み過ぎ」は健康に損なうことは言うまでもありません。
 
 
また、妊娠中や授乳中はお酒は控えるべきことはよく知られていると思いますが、妊娠前については、飲酒の影響はどのように考えればいいのかについてお話し致します。

まず、厚生労働省が飲酒についてのガイドラインを定めているのでそれを確認しておきましょう。

 
 
厚生労働省による飲酒のガイドライン

 
厚労省は「通常のアルコール代謝能を有する日本人においては、節度ある適度な飲酒として、1日平均純アルコールで20グラム程度である」と定めています。
 
 
1日の飲酒量の目安の「アルコール20グラム」は日本の基準飲酒量の1単位に相当します。
 
 
ただ、これだけではどれくらい飲めるのかよくわかりません。
 
 
お酒の種類によって、アルコール度数が異なりますので、アルコール20グラムというのはどれくらいの量なのか、それぞれのお酒の種類ごとの1単位の量は以下の通りです。

・ビール(アルコール度数5度)  中ビン1本(500ml)

 
・缶チューハイ(アルコール度数5度)1缶(約500ml)
 
・ワイン(アルコール度数14度)  グラス1杯(約180ml)
 
・日本酒(アルコール度数15度)  1合(180ml)

 
1日に飲む量はこれくらいまでにしておきましょうということです。
 
さらに、厚労省は週に2日は休肝日にするように提案していますので「週に5単位」ということになります。

ただし、これは、あくまで、一般向けのガイドラインで、残念ながら妊娠希望のカップルのためのガイドラインは決められていません。

これまでアルコール摂取と妊娠する力の関係について調べた研究が多数実施されていますので、それらをご紹介いたします。

 
 
 
 
『アルコール摂取と妊娠する力』
 
 

これまでアルコール摂取量と妊娠する力の関係を調べた研究報告では、アルコール摂取量が多くなると、やはり、妊娠しづらくなるとしています。
 
ただし、週に5単位くらいの飲酒量であれば、妊娠しづらくなるとするものもあれば、影響しないとするものもあり、反対に妊娠しやすくなるという報告もあったりして、「いろいろ」です。

 
 
 
代表的な論文を紹介します。

スウェーデンの研究でストックホルム在住の7,393人を対象にアルコール摂取と不妊症のリスクとの関係を18年間に渡って調べたところ、

 
週に7単位以上飲酒する女性は
 
週に2~7単位未満飲酒する女性に比べて不妊症リスクが58%高く
 
週に2.5単位未満しか飲酒しない女性は
 
週に2~7単位未満飲酒する女性に比べて不妊症リスクが35%低かった
 
といいます。

また、7,760人のデンマーク女性を対象に平均4.9年間追跡調査した研究では

 
女性の年齢が30歳未満であれば、アルコールの摂取量は妊娠に影響を及ぼさなかったのに
 
30歳を超えると、週に7単位以上飲酒する女性は、週に1単位未満の女性に比べると、不妊症のリスクが2.26倍だったと報告しています。

アルコールの摂取量が多くなるほど妊娠しづらくなり、その影響は年齢が高いほど顕著になるというわけです。

その一方で、飲酒したほうが妊娠しやすくなるとの報告もあります。

29,844人の妊婦にアルコール摂取と妊娠するまにかかった期間を調べたデンマークの調査では

 
週に14単位以上の飲酒は妊娠しづらくなる
 
週に7単位以下であれば、飲酒すは妊娠するまでの期間に影響を及ぼさず、全く飲まない女性に比べて妊娠しやすくなったというのです。

 
 
また、アルコールの種類別に妊娠するまでに要した期間を調べてみると
 
ワインを飲む女性はワインを飲まない女性やビールやスピリットを飲む女性に比べて摂取量に関わらず、妊娠までの期間が短いとの結果が出ています。

 

流産の原因となる「染色体異常」について

2017年12月20日 水曜日

流産の原因
 
妊娠しても残念なことに流産してしまうこともあります。

この原因として、母体側と胎児側が考えられます。

 
そして、胎児側の原因には染色体異常が多くを占めているといわれています。
 
 
 

染色体とは

 

染色体とは、簡単にいうと遺伝情報を持つDNAの塊であり、

細胞の核内に存在します。ヒトの場合、2本1対となっていて、

23対46本あります。父親から23本の染色体を持つ精子と、

母親から23本の染色体をもつ卵子が受精して46本の染色体

をもつ受精卵ができます。


 
 
染色体異常とは

 

染色体異常には、数的異常や構造異常などがあります。

 
数的異常(=異数性)とは、染色体の一部、あるいは複数の部分が
 
1本多い場合(トリソミー)と,1本少ない場合(モノソミー)があります。

構造異常には、染色体の一部の欠失や重複、転座などがあります。

 

転座とは、染色体のある部分が、本来とは別の位置にある状態で、

 
大きく分けて、均衡型転座と不均衡型転座があります。

 

均衡型転座とは、ある染色体とある染色体の間で場所が入れ替わって

いるが全体を通して過不足はない状態です。

 
 
不均衡型転座とは、転座により染色体量の過不足が起こっている状態です。

 

 
 
 
新生児における染色体異常児の割合
 
image
 
 
 
 
新生児の染色体異常の頻度は1/154 (約0.6%)認められています。

 

 
 
自然流産児における染色体異常児の割合
 
 
さらに、これは各染色体異常が妊娠過程においてどのような予後を取るかを予測
 
したものです。染色体異常のある受精卵や胎児は生まれてくるまでの間に淘汰さ
 
れ、実際に生まれてくる頻度は低いと考えられます。
 
 
 
 
では、受精卵での染色体異常の割合はどうなっているのか??

 

こちらの論文より

Diminished effect of maternal age on implantation after preimplantation genetic diagnosis with array comparative genomic hybridization

 

image (2)

 

(初期胚とは受精後3日目の胚で胚盤胞とは体外で培養できる最終段階の状態です)

 

年齢にともない、異数性の割合が増加していることがわかります。

どの年齢においても、初期胚より胚盤胞の方が異数性の割合が下がっているます。

 
受精卵は胚盤胞に発達してくるまでの間に多少、異常のものは淘汰されていると考えられます。

現在では着床前スクリーニングといった胚の染色体異数性異常を調べる方法もあります。

このスクリーニングを行い、胚を選別することにより、妊娠率が向上し流産率を低下させる

可能性があるといわれています。

 
 
参考文献
トンプソン&トンプソン遺伝医学 第2版
マイクロアレイ染色体検査