不妊治療
2021年4月11日 日曜日
現在のコロナ禍の中、妊活中の患者様から妊娠しても大丈夫?感染したらどうする?などの質問を多数頂きます。
現在、論拠となるエビデンスも少しづつですが増え始めお答えできる内容も増えてきました。
今回は
『コロナ禍の妊活・妊娠Q&A』
と題して患者様からの質問Q4からの続きをお送り致します。
【Q4】コロナ禍のいま妊娠したら、どんなことに気を付ければいいですか?
妊娠中は免疫力が下り、体調を崩しやすくなります。規則正しい生活とバランスの取れた食事を心掛けるとともに、感染症対策は妊娠前以上に念入りに行ってください。
また、仕事をする上で、新型コロナウイルス感染症に感染するのではないか?という心配があったり、そうした心配がストレスになって自身や赤ちゃんの健康に影響があると考えられる場合は、かかりつけ医に相談を。
その上で勤務先に時差通勤やテレワーク、休暇などが取れないかどうか、申し入れてみてください。これは男女雇用機会均等法に基づく母性健康管理措置として、妊娠中や出産後1年以内の女性労働者に認められているものです。
なお、勤務先と相談するときには、かかりつけ医に「母健連絡カード(母性健康管理指導事項連絡カード)」を書いてもらい、提出するのがお勧めです。
【Q5】妊娠中にコロナ感染が疑われる症状が出たら、どうすればいいですか?
現時点では、妊婦さんだからといって重症化しやすいという傾向は認められていません。ただし、一般的に妊娠中は肺炎になった場合は重症化する可能性が高いので、注意が必要です。
せきや発熱など感染が疑われる症状が出たら、あまり間を置かずにかかりつけ医に相談してください。この場合、直接出向くのは避け、電話で連絡します。
なお、妊婦さんはPCR検査の公的補助の対象になります。
【Q6】妊娠中に家族が感染したら、どうすればいいですか?
新型コロナウイルス感染症に感染した場合、基本的には入院あるいは宿泊施設での療養となります。ただし、入院などをするまでに自宅で過ごす場合もあるようなので、その際は可能な限り感染者とは接触しないようにしてください。これは濃厚接触者の場合も同様です。
具体的には、感染者や濃厚接触者とは過ごす部屋を分けます。双方ともマスクを着け、手洗いや消毒は丁寧に。また、自分が過ごす部屋はこまめに換気を行い、トイレやお風呂、ドアノブなど共用部分もしっかり消毒します。
感染者あるいは濃厚接触者となった家族のことは心配でしょうが、妊婦さんがお世話をすることは絶対に避けてください。
なお、無症状者や軽症者に関しては地域によっては自宅療養になることもあるようですが、妊婦さんが同居していることを伝え、できるだけ入院または宿泊療養できるようにお願いすることをお勧めします。
【Q7】妊娠中にコロナ感染した場合、母体や赤ちゃんにどんな影響がありますか?
先にも述べたように、現時点では、妊婦さんが新型コロナウイルス感染症に感染した場合に、重症化しやすいという報告はありません。さらに、流産や死産しやすいといった報告もいまのところなく、胎内感染や胎児の異常も極めてまれといわれています。ただし、妊婦さんは肺炎を起こすと重症化しやすい傾向にはあります。
なお、妊娠中に感染した場合、治療や妊婦健診はかかりつけ医ではなく、新型コロナウイルス感染症に対応できる医療機関で行うことになります*。また、妊娠後期に感染した場合は、分娩(ぶんべん)もかかりつけ医ではなく感染症に対応できる医療機関で行うことになり*、帝王切開になる可能性が高いといわれています。
感染が拡大し、どこで感染してもおかしくないといわれる新型コロナウイルス感染症ですが、特に妊婦さんは感染しないに越したことはありません。不要不急の外出や人ごみなどは避け、マスクを着用し、こまめに手洗いするなど感染防止に努めましょう。
*かかりつけ医が新型コロナウイルス感染症に対応できる場合は除きます。
正しい情報を知って赤ちゃんを迎えましょう
まだわからないことも多い新型コロナウイルス感染症ですが、むやみに恐れる必要はありません。現時点でわかっている正しい情報を知り、冷静に対処することがお勧めです。大切なのは基本的な感染症対策。しっかり対策を取り、ストレスをためずに日々の生活を送ることが、妊活や妊娠生活にプラスに働くでしょう。
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2021年4月10日 土曜日
コロナ禍の妊活について、2回シリーズで患者様からの質問をQ&Aでお送り致します。
【Q1】コロナ感染拡大が収まらないうちに妊活をしても大丈夫ですか?
新型コロナウイルス感染症は妊娠や出産、胎児にはあまり影響がないとされています。
一時期は延期をした方がいいとされていた不妊治療に関しても、再開してもよいという判断が出ています。
ただし、感染を予防するために妊婦健診に支障が出たり、里帰り出産や立ち会い出産、出産後の親族の面会などには制限が掛かる可能性も(対応は病院や産院で異なります)。
そうしたリスクを理解した上で、妊活を行うのは問題ないでしょう。
妊娠はタイミングが重要。子どもが欲しいと思ったら、タイミングは逃さないのがお勧めです。
【Q2】コロナ禍の状況下で妊活をする際に気を付けた方がいいことはありますか?
基本的には通常の妊活と気を付けることは一緒です。大切なのは体の調子を整えること。生活習慣や食習慣を見直しましょう。
コロナの影響で外出がままならない現在、生活のリズムが狂いがちという人もいるかもしれませんが、家に長くいる期間を利用してしっかり整えて。
早寝早起きを心掛け、睡眠時間はたっぷりと。ウオーキングやヨガ、ストレッチなどの軽い運動をしたり、ゆっくりと入浴タイムを楽しむのは、質の高い睡眠を得るためにもお勧めです。
ストレスの軽減にも役立つでしょう。また、バランスの良い食事も心掛けて。
もちろん、こんな時期ですから感染対策は万全に。密閉・密集・密接となる環境はできるだけ避け、外出の際はマスクを着用。手指はこまめに手洗い・消毒をしましょう。
【Q3】妊活中にコロナ感染が疑われる症状が出た場合、どうすればいいですか?
これは一般の人と変わりません。せきや発熱など新型コロナウイルス感染症が疑われる症状がある場合は、かかりつけ医に電話で相談してください。
もし感染していて治療が行われる場合は、最初に妊娠の可能性があるかどうかを聞かれるはずです。もし聞かれなかった場合は、妊活中であることを伝えましょう。
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2021年3月12日 金曜日
前回の投稿の続きで人工授精や体外受精でも性交回数が多いほうが妊娠率が高くなるというエビデンスを紹介したいと思います。
『性交そのものが着床環境を免疫的に整えるように促す』
文献:Fertil Steril 2014;104:1513
https://academic.oup.com/emph/article/2015/1/304/1798160?login=true
インディアナ大学のキンゼイ研究所で、精液だけでなく、性行為そのものも免疫システムに影響を及ぼしているのではないかと考え、そのことを確かめた研究があります。
30名の女性に、月経サイクル中の月経期、卵胞期、排卵期、黄体期の4回、唾液を提供してもらい、唾液中の生殖ホルモン(エストロゲン、プロゲステロン)や2種類のヘルパーT細胞(Th1、Th2)が放出するサイトカイン(IFN-γ、IL-4)を測定し、それぞれの値の月経サイクル内の変動と性交との関係を解析したものです。
その結果、性交のあった女性では、黄体期に妊娠に有利に働くサイトカインが優勢でしたが、性交のなかった女性ではみられませんでした。
結果はコンドームの使用の有無に影響を受けなかったことから、性交そのものが、月経周期中の免疫反応が妊娠に有利に働くのかもしれません。
『精液は妊娠合併症のリスクや胎児の健康にも影響するかもしれない』
文献:J Reprod Immunol. 2009; 82: 66
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19679359/
カップルの性的な関係のあった期間と妊娠後の子癇前症やSGA(子宮内発育遅延)との関係をニュージーランドとオーストラリアで調べた研究があります。
2,507名の初産の妊婦を対象にパートナーとの性的な関係の期間と子癇前症やSGAの発症との関係を調べたところ、期間が短いカップルほど子癇前症やSGAの発症リスクが高いことがわかりました。
これは、女性の生殖器官がパートナーの精液に触れる頻度が高くなるほど、女性の生殖器官が妊娠合併症のリスク低減や子宮内の胎児の成育に有利な状態になることによるのではないかとしています。
性交は「妊娠しやすさ」だけでなく、「妊娠合併症のリスク低減」や「胎児の成長」にも有利に働くかもしれません。
私的な意見ですが、自然妊娠では性交回数が多くなるほど妊娠の確率が高くなるのは理屈抜きで理解できますが、人工授精や体外受精、顕微授精では、もはや、性交は不要と考えがちかもしれません。
ところが、私たちには、「膣内射精で精液が女性の生殖器官に触れること」や「性交そのもの」が女性の身体が妊娠や出産に有利に働くメカニズムが備わっている可能性が大きいことがわかりました。
であれば、たとえ、タイミング指導でも排卵期以外にも性交すること、そして、たとえ、生殖補助医療を受けていても性交することは「いいこと」になるわけです。
ただし、くれぐれも誤解しないでいただきたいのは、不妊治療を受けている場合、「性交」は妊娠、出産に有利に働くようですが「性交」は必要条件ではありません。
つまり、ここでも、性交は「義務」ではないけれども、多少なりとも、妊娠、出産のサポートになるかもしれないということです。
それにしても、新しい命の誕生に際しての人間の身体のつくりの精巧さ、奥深さ、そして、神秘さに、驚かされるとともに、あらためて感動し、畏敬の念を抱かざるを得ません。
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2021年3月11日 木曜日
アメリカ生殖医学会は学会見解として、妊娠する力に最も影響を及ぼすのは「女性の年齢」で、その次が「性交回数」であるとして、毎日性交することで周期あたりの妊娠率が最も高くなるという研究結果を紹介しています。
ただし、性交が妊娠率上昇に寄与するのは、タイミングが合いやすくなること以外にもあることが意外に知られていないように思います。
今回は2回に分けて人工授精や体外受精でも性交回数が多いほうが妊娠率が高くなるというエビデンスを紹介したいと思います。
性交回数が多いほど妊娠しやすくなります。つまり、「性交には妊娠への障害を取り除く効果がある」というわけです。
お伝えしたいのは、性交が妊娠率に影響するのは、自然妊娠だけで
なく、たとえ、人工授精や体外受精、顕微授精を受けていても、同じことが言えるかもしれないということです。
そして、性交は、妊娠率だけでなく、妊娠、出産の合併症リスクの低下や胎児の健康にまで影響するかもしれないのです。
『精液は着床環境を免疫的に整えるスイッチをオンにする』
文献:
1)Hum Reprod. 2000; 15: 2653⇒ https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11098040/
2)Hum Reprod Update. 2015; 21: 275⇒ https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25281684/
オーストラリアとスペインで体外受精の移植日前後の性交と妊娠率を調べた研究があります(1)。
移植直後の性交は子宮の収縮を招き、着床の障害になったり、感染の原因になったりする可能性があることから、移植後の性交は控えたほうがよいという考え方があります。
ところが、その一方で、射精された精液が子宮や卵管などの女性の
生殖器官に触れることで、女性側の着床環境が免疫的に整うことが
動物実験でわかっています。
そもそも、女性にとって受精卵は「異物」であり、本来は免疫機能が働き、排除されるのですが、妊娠時には、不思議なことに「異物」を排除しないで、受け入れるように免疫が働きます。
そして、そのスイッチをオンにする役割が精液にあることが動物で確かめられているのです。
そこで、アデレード大学の研究グループは、人間にも同じようなメカニズムが働くのかもしれないと考え、478周期の体外受精の1343個の胚移植で、移植時期の性交の有無による治療成績を比較しました。
その結果、治療周期あたりの妊娠率には差はありませんでしたが、妊娠に至った胚の割合は移植時期に性交があったほうが高いことがわかりました。
もう1つ、性交や精液の注入と妊娠率の関係を調べたメタ解析(過去の複数の研究のデータを収集、統合し、統計的方法による解析)があります(2)。
トータルで7つの無作為比較対象試験(被験者総数2,204名)では、性交があった、もしくは、精液を注入したカップルのほうが妊娠の確率が23%高かったことがわかりました。
人間においても、精液は女性の生殖器官で着床に有利な免疫的働きを促すスイッチをオンにするのかもしれません。
次回は『性交そのものが着床環境を免疫的に整えるように促す』『精液は妊娠合併症のリスクや胎児の健康にも影響するかもしれない』について解説致します。
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