不育症

朝食をしっかり、夕食を軽く食べることでPCOS女性の排卵率がアップ

2019年8月23日 金曜日

『朝食をしっかり、夕食を軽く食べることでPCOS女性の排卵率が高まる』

 

Clinical Science  

 

 

 

朝食をしっかり、夕食を軽く食べることで肥満ではないPCOS女性のインスリン抵抗性や高アンドロゲンが改善され、排卵率が高まることがイスラエルの研究で明らかになりました。

 


テルアビブ大学の研究チームはBMIが正常な(肥満ではない)PCOS患者60名をランダムに2つのグループに分け、一方のグループには朝食をしっかり食べてもらい、もう一方のグループのは夕食をしっか食べてもらいました。いずれのグループも1日の総カロリーは1800カロリーと同じにしました。

 

 
 
 
それぞれのグループの3食のカロリー配分は以下の通りです。

 
 
・朝食しっかりグループ:朝食980カロリー、昼食640カロリー、夕食190カロリー
 
・夕食しっかりグループ:朝食190カロリー、昼食640カロリー、夕食980カロリー

 

 
 
そして、90日後にインスリンやブドウ糖、テストステロンのレベルを測定しました。

 

 
 
その結果、いずれのグループもBMIに変化は見られなかったものの、夕食をしっかり食べたグループはインスリンやテストステロンのレベルが高かったのに対して、朝食をしっかり食べたグループはインスリン抵抗性は56%、テストステロンレベルは50%、それぞれ低下し、それに伴い排卵率が50%高まりました。

 

 
 
このことから、朝食をしっかり、夕食を軽く食べることで、食後の血糖値の上昇が抑制され、インスリンをコントロール出来、PCOSの排卵障害の改善につながることがわかりました。

 

 
 
注釈

 

 
 
PCO(多嚢包性卵巣)とは小さな卵胞がたくさんみられる状態の卵巣のことをいい、超音波検査で確認できます。
 
 
 
そして、それに加えて、排卵しづらい、あるいは、排卵しないという月経異常を伴うこと、そして、血中男性ホルモン値が高い、または、LH(黄体化ホルモン)値が高いこと、この3つをすべて満たすと、PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)と診断されます。
 
 
 
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男性ホルモンの値が高いため、卵胞は発育するものの途中で成熟が阻害されてしまい、排卵障害や無排卵を招くことで、不妊の原因になります。

 

 
 
ただ、症候群なわけですから、その症状は、決して、一様ではなく、肥満や内臓脂肪過剰、また、毛深くなるなどの男性化傾向がみられることがあったり、インスリン抵抗性といって、インスリンの効き目が悪くなって、糖や脂質の代謝に異常をきたす状態が、男性ホルモン値が高い背景にあることがあり、そのメカニズムはとても複雑なようです。

 

 
 
PCOSによる排卵障害の治療は、まずは、排卵誘発剤を使いますが、あくまで、対症療法です。

 

 
 
そのため、セルフケアとして、ダイエット(減量)が勧められています。特に糖質制限がお勧めです。
 
 
 
PCOSの女性には肥満が多く、減量することで排卵しやすくなるからです。
 
 
 
ところが、特に日本人では、BMIが正常な肥満でないPCOSの女性が少なくありません。そのため、インスリン抵抗性がある場合には、食後の血糖値を急上昇させない食べ方をすることで、血糖値の上昇や下降をより穏やかなものにし、インスリンの分泌を少なくすることでホルモンのバランスが改善されることが確かめられたわけです。

 

 
 
朝食をしっかり食べ、昼食、夕食と次第に軽くすることだけでなく、カロリー制限ではなく、炭水化物(糖質)の量を制限すること、また、食事の際に食物繊維が豊富な野菜から食べ、次にたんぱく質、最後に炭水化物を食べることでも食後の血糖値の上昇をゆるやかにすることが出来ます。

 

 
 
また、このことはPCOSと診断されている女性だけでなく、高血糖状態は卵細胞にダメージを及ぼす酸化ストレスを高めたり、AGEの産生を促進したりして、卵質の低下を招く恐れがありますので、妊娠を望む全ての女性に勧められる「食べ方」です。

歯周病は妊娠を遅らせるかもしれない

2019年8月21日 水曜日

最近の研究では、腸内フローラ、子宮内フローラ、口腔内フローラは連動しており着床に大きく寄与する事がわかってきています。
 
 
今日は口腔内フローラと妊娠の関係の論文をJournal of Oral Microbiology  で見つけましたので和訳して解説致します。  
 

 

『歯周病は妊娠を遅らせるかもしれない』

 

Journal of Oral Microbiology  

 

 

唾液中に歯周病の原因細菌や原因細菌の抗体が検出された女性は検出されなかった女性に比べて妊娠するまでにより時間がかかることをフィンランドで実施された試験で明らかになりました。

 

 

ヘルシンキ大学の研究チームは歯周病が妊娠しやすさに及ぼす影響を調べることを目的に妊娠を希望する256名の女性を対象に唾液と血液を採取し、唾液中の歯周病原因細菌(Porphyomonas gingivalis、Actinobacillus actinomycetemcomitans)、また、唾液と血液中の歯周病菌の抗体を検査し、12ヶ月間、妊娠の成立を追跡調査し、それらの関係を解析しました。

 

 

その結果、1年で256名中、205名が妊娠し、51名は妊娠しませんでした。

 

 

妊娠しやすさと有意な関連がみられたのは、唾液中のP.gingivalisの検出と唾液中のP.gingivalisとA.actinomycetemomitans抗体のレベルでした。

 

 

唾液中にP.gingivalisが検出された女性の割合は、妊娠できた女性(2.1%)よりも妊娠できなかった女性(8.3%)で有意に高く、唾液中の歯周病原因細菌の抗体レベルは妊娠できなかった女性のほうが妊娠できた女性よりも有意に高いことがわかりました。

 

また、唾液中にP.gingivalisが検出され、かつ、P.gingivalis抗体レベルが高かった(全体の上位3分の1)女性はP.gingivalisが検出されず、かつ、抗体レベルが低かった女性に比べて、12ヶ月間で妊娠できない確率が3.75倍高いことがわかりました。

 

 

さらに、歯周ポケット(歯と歯茎の境目が深くなった状態)がある女性で血液中のP.gingivalis抗体レベルが高ければ12ヶ月で妊娠できない確率が1.62倍でした。

 

 

 

このことから、唾液中の歯周病原因細菌の検出やその抗体レベルは不妊症のリスクファクターになり、歯周病は妊娠するまでに時間がかかる可能性があることがわかりました。

 

 

 

注釈

歯周病は、細菌の感染によって引き起こされる炎症性疾患で、歯と歯肉の境目(歯肉溝)の清掃が行き届かないでいると、そこに多くの細菌が停滞し(歯垢の蓄積)歯肉の辺縁が「炎症」を帯びて赤くなったり、腫れたりします(痛みはほとんどの場合ありません)「日本臨床歯周病学会のサイトより」。

 

 
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歯周病は全身の疾患に関連すると考えられていて、これまで低出生体重児や早産のリスクが上昇することがわかっていました。

 

 
 
今回のヘルシンキ大学の研究は歯周病と妊娠する力との関係を調べた初めての研究とのこと。

結果は関連するかもしれないというものでした。

 
 
 
 
最近の研究では、腸内フローラ、子宮内フローラ、口腔内フローラは連動しており着床に大きく寄与する事がわかってきています。

 

 
妊娠を希望する女性は、必ず、歯周病の検査を受けるようにし、歯のメンテナンスを怠らないようにすることが大切です。

 

子宮内膜再生増殖法 ERP

2019年8月19日 月曜日

昨日お送りした『子宮内膜再生PRP療法』と同時に臨床研究が進んでいる今年の3月より承認が下りた新しい治療法をご案内致します。

 
 
 
『子宮内膜再生増殖法 ERP』

 
IPS細胞と同じく幹細胞を不妊治療に応用した子宮内膜再生増殖法ERPをご紹介します。
 
これは、月経血の幹細胞により子宮内膜を再生させ、着床の正常化を目的とした全く新しい治療です。

 
適応

・着床不全
・早期流産、化学的流産
・原因不明不妊
・内膜が薄い方

子宮内膜増殖再生法ERPの効果

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月経血より抽出した幹細胞上清液を子宮に注入することで

 
・子宮内膜を再生増殖
・受精卵と内膜の免疫反応を正常化
・移植後の受精卵発育を助長

 
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治療前 ⇒ ERP実施8日後
 
ERP液注入直後から子宮内膜は再生を開始し、8日後には肥厚した状態に変化した。

 
 
子宮内膜増殖再生法ERPの流れ

 
①月経1~3日目の月経量が多い日に来院
 
 
  1)月経血の採取:1分程度、痛みはありません。
  2)100CCの採血:幹細胞の培養時に使用するタンパク質成分をご自身の血液から精製するためです。
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②月経血から幹細胞を抽出し、30日間培養。

 
③排卵の2~5日前に「サイトカイン、グロースファクターなどの有効成分を含む上清液」を子宮内に注入する。

 

子宮内膜再生PRP療法

2019年8月16日 金曜日

今年の3月より承認が下りた新しい治療法をご案内致します。
 

 

 

『子宮内膜再生PRP療法』

 
 
PRP療法は、再生医療の一種で、ご自身の血液由来の多血小板血漿(たけっしょうばんけっしょう、Platelet-Rich Plasma)を用いた治療法で、近年歯科、関節の治療などへの使用が開始されました。

 

 
PRPを子宮内膜が厚くなりにくい患者様の子宮に注入し、PRPに含まれる様々な成長因子により子宮内膜の成長を促進させる治療法です。
 
 
子宮内にPRPを注入する治療法はより高度な「第二種再生医療等(*1)」に該当します。
 
 
PRP療法の原理

PRPの主成分は血小板です。血小板は、血液に含まれる成分で、指を切ったときなどに出血を止める働きがあります。

 
また血小板は、血小板由来成長因子(PDGF)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、上皮細胞成長因子(EGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)など様々な細胞成長因子を含んでいます。
 
これらの成分が傷口で放出されると、傷口の細胞増殖が活発になり傷の治りが早まります。
 
PRPを子宮内に注入すると、これらの成長因子が子宮内で放出されます。

その結果、子宮内膜で細胞の成長が促進され、子宮内膜が厚くなることが期待できます。

子宮内膜が厚くなると移植した胚が着床しやすくなりますので妊娠が期待されます。

 
 
 
対象となる方
 
PRP療法の対象となる方は、次の項目に該当する子宮内膜が厚くなりにくい方が対象となります。
 
・凍結融解胚移植の周期にホルモンを補充しているにもかかわらず子宮内膜が7 mmに達しなかったため胚移植がキャンセルとなったことがある患者様。

 

 
・子宮内膜発育不全と診断された患者様。
 
 
方法
 
患者様の前腕から静脈血を20 ml採取し、専用の機械(遠心分離機)で血漿部分を抽出します。

調製したPRP(1 ml)を、子宮用チューブで患者様の子宮内に注入します。 採取したPRPが固まるなど、その性状が注入に不適切と判断された場合には投与を中止することがあります。また、採血が複数回になることがあります。

 
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投与スケジュール

 
月経周期(月経が始まった日が1日目)の10日目、12日目にPRPを子宮内に注入します。
 (12日目の2回目は患者様の希望で省略することができます)

 

 
月経周期の14日目に子宮内膜の厚さを経腟エコーで測定します
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月経周期の14日目から16日目頃に人工授精を行います
 (人工授精をおこなった場合、胚移植は行いません

    ↓
 
経周期の17日目から19日目頃に胚移植を行います
 (胚移植をおこなった場合、人工授精は行いません)