アメリカ生殖医学会は学会見解として、妊娠する力に最も影響を及ぼすのは「女性の年齢」で、その次が「性交回数」であるとして、毎日性交することで周期あたりの妊娠率が最も高くなるという研究結果を紹介しています。
ただし、性交が妊娠率上昇に寄与するのは、タイミングが合いやすくなること以外にもあることが意外に知られていないように思います。
今回は2回に分けて人工授精や体外受精でも性交回数が多いほうが妊娠率が高くなるというエビデンスを紹介したいと思います。
性交回数が多いほど妊娠しやすくなります。つまり、「性交には妊娠への障害を取り除く効果がある」というわけです。
お伝えしたいのは、性交が妊娠率に影響するのは、自然妊娠だけで
なく、たとえ、人工授精や体外受精、顕微授精を受けていても、同じことが言えるかもしれないということです。
そして、性交は、妊娠率だけでなく、妊娠、出産の合併症リスクの低下や胎児の健康にまで影響するかもしれないのです。
『精液は着床環境を免疫的に整えるスイッチをオンにする』
文献:
1)Hum Reprod. 2000; 15: 2653⇒ https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11098040/
2)Hum Reprod Update. 2015; 21: 275⇒ https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25281684/
オーストラリアとスペインで体外受精の移植日前後の性交と妊娠率を調べた研究があります(1)。
移植直後の性交は子宮の収縮を招き、着床の障害になったり、感染の原因になったりする可能性があることから、移植後の性交は控えたほうがよいという考え方があります。
ところが、その一方で、射精された精液が子宮や卵管などの女性の
生殖器官に触れることで、女性側の着床環境が免疫的に整うことが
動物実験でわかっています。
そもそも、女性にとって受精卵は「異物」であり、本来は免疫機能が働き、排除されるのですが、妊娠時には、不思議なことに「異物」を排除しないで、受け入れるように免疫が働きます。
そして、そのスイッチをオンにする役割が精液にあることが動物で確かめられているのです。
そこで、アデレード大学の研究グループは、人間にも同じようなメカニズムが働くのかもしれないと考え、478周期の体外受精の1343個の胚移植で、移植時期の性交の有無による治療成績を比較しました。
その結果、治療周期あたりの妊娠率には差はありませんでしたが、妊娠に至った胚の割合は移植時期に性交があったほうが高いことがわかりました。
もう1つ、性交や精液の注入と妊娠率の関係を調べたメタ解析(過去の複数の研究のデータを収集、統合し、統計的方法による解析)があります(2)。
トータルで7つの無作為比較対象試験(被験者総数2,204名)では、性交があった、もしくは、精液を注入したカップルのほうが妊娠の確率が23%高かったことがわかりました。
人間においても、精液は女性の生殖器官で着床に有利な免疫的働きを促すスイッチをオンにするのかもしれません。
次回は『性交そのものが着床環境を免疫的に整えるように促す』『精液は妊娠合併症のリスクや胎児の健康にも影響するかもしれない』について解説致します。