前回の投稿の続きで人工授精や体外受精でも性交回数が多いほうが妊娠率が高くなるというエビデンスを紹介したいと思います。
『性交そのものが着床環境を免疫的に整えるように促す』
文献:Fertil Steril 2014;104:1513
https://academic.oup.com/emph/article/2015/1/304/1798160?login=true
インディアナ大学のキンゼイ研究所で、精液だけでなく、性行為そのものも免疫システムに影響を及ぼしているのではないかと考え、そのことを確かめた研究があります。
30名の女性に、月経サイクル中の月経期、卵胞期、排卵期、黄体期の4回、唾液を提供してもらい、唾液中の生殖ホルモン(エストロゲン、プロゲステロン)や2種類のヘルパーT細胞(Th1、Th2)が放出するサイトカイン(IFN-γ、IL-4)を測定し、それぞれの値の月経サイクル内の変動と性交との関係を解析したものです。
その結果、性交のあった女性では、黄体期に妊娠に有利に働くサイトカインが優勢でしたが、性交のなかった女性ではみられませんでした。
結果はコンドームの使用の有無に影響を受けなかったことから、性交そのものが、月経周期中の免疫反応が妊娠に有利に働くのかもしれません。
『精液は妊娠合併症のリスクや胎児の健康にも影響するかもしれない』
文献:J Reprod Immunol. 2009; 82: 66
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19679359/
カップルの性的な関係のあった期間と妊娠後の子癇前症やSGA(子宮内発育遅延)との関係をニュージーランドとオーストラリアで調べた研究があります。
2,507名の初産の妊婦を対象にパートナーとの性的な関係の期間と子癇前症やSGAの発症との関係を調べたところ、期間が短いカップルほど子癇前症やSGAの発症リスクが高いことがわかりました。
これは、女性の生殖器官がパートナーの精液に触れる頻度が高くなるほど、女性の生殖器官が妊娠合併症のリスク低減や子宮内の胎児の成育に有利な状態になることによるのではないかとしています。
性交は「妊娠しやすさ」だけでなく、「妊娠合併症のリスク低減」や「胎児の成長」にも有利に働くかもしれません。
私的な意見ですが、自然妊娠では性交回数が多くなるほど妊娠の確率が高くなるのは理屈抜きで理解できますが、人工授精や体外受精、顕微授精では、もはや、性交は不要と考えがちかもしれません。
ところが、私たちには、「膣内射精で精液が女性の生殖器官に触れること」や「性交そのもの」が女性の身体が妊娠や出産に有利に働くメカニズムが備わっている可能性が大きいことがわかりました。
であれば、たとえ、タイミング指導でも排卵期以外にも性交すること、そして、たとえ、生殖補助医療を受けていても性交することは「いいこと」になるわけです。
ただし、くれぐれも誤解しないでいただきたいのは、不妊治療を受けている場合、「性交」は妊娠、出産に有利に働くようですが「性交」は必要条件ではありません。
つまり、ここでも、性交は「義務」ではないけれども、多少なりとも、妊娠、出産のサポートになるかもしれないということです。
それにしても、新しい命の誕生に際しての人間の身体のつくりの精巧さ、奥深さ、そして、神秘さに、驚かされるとともに、あらためて感動し、畏敬の念を抱かざるを得ません。